以前は商店が立ち並んでいた芦辺浦も他の多くの地方と同じく、少子高齢化が進み、人が素通りする寂しいまちになっていました。この住宅は故郷であるこの場所に住むことを決めた私たちの住まいであり仕事場です。40年前に両親が建てた住宅はライフスタイルや価値観が違うため、私たちにとって愛着のもてるものではありませんでした。数年にわたって考えた末、暮らしを変えるため、まちを変えるため、この住宅をリノベーションすることに決めました。
道に面した部分は以前はまちに対して閉じている印象でした。その部分を今回はダイニングキッチンとし、まちに対して開き、内部の生活や活動が外に漏れだすよう計画しました。以前商店街だったこのまちには、道に面して土間になっているが多くあります。この小さなスケールのまちの中に、こういった土間を利用して、その中の生活や活動が外ににじみ出てくる住まいががぽつぽつと出てくることで、まちが変わるきっかけになると考えます。
「人が集まる家」には新しいコミュニティがうまれ、それがまちににぎやかさを与えます。そして、わたしたちの暮らしに不可欠なものについて考え、暮らしをシンプルにすること。
朝、近所の人とキッチンから話をし、仕事に出かける人と挨拶をする。午後にはこの縁側に人々が腰掛け、世代を超えて会話が始まる。そういったことがまちのなかでぽつぽつと起こってくること。
わたしたちは、リビングルームに入ってくるやわらかいひかりや通り抜ける風、まちの気配を感じ、大きなテーブルで気の合う人たちと食卓を囲む喜びを感じています。好きなものに囲まれ少しずつ愛着のある場所へと成長しています。