壱岐島の美しい砂浜を望む高台に古くからある公共施設をオーベルジュに改装するプロジェクト。
名だたる有名シェフから薫陶を受け料理と向き合ってきた壱岐島出身のシェフが腕を振るうお店の名前は「彼は誰(かわたれ)」。
彼は誰時(1日のうち明け方のまだ薄暗くはっきりものの見分けがつかない時間帯)を過ぎると水平線からゆっくりと朝日が昇りこの場所の最も美しい時間となる。
長い間そこに放置され廃墟となっていたこの建物。
そこには、風景に対峙しながら、何かのためでもなく、人のためでもなく存在している物質の美しさがあった。
この風景と長い時間を経た建築をそのまま感じることができる新しい居場所をつくることを目指した。
長期間海風にさらされ風化している素材も、どこか愛し気に思えるように、そのままにしておく部分を一つ一つ注意深く選択していった。
時間が経って古くなった部分と新しく手を入れた部分が均衡し、空間にコントラストが生まれ、この風景と等価となる内部空間をつくりだしている。
わずか半径10kmの範囲で得られる多様な食材が主役となる料理、その食材の姿を想像しながらいただく特別な時間。
食と風景と空間が一体となって、壱岐島を丸ごと感じることができる場所が生まれればと思っている。
Photo : Sachi Monji