ACB Living

敷地は長崎県の離島壱岐島の東側に位置する芦辺浦という港まちの通りに面した小さな空き地である。以前は商店が連なり、日常的な賑わいがあったが、近年は人も商店も減り続け、空き地がまちを侵食している。そんな中、6年前に開業した一軒のゲストハウスがきっかけとなり、徐々にまちに変化が生まれ始めた。島の外から移住してくる人が少しずつ現れ、地元の人と混ざり合いながら新しいコミュニティが生まれている。

このような状況の中で計画されたACB Livingはコワーキング利用・企業のオフサイト研修も行う施設である。島外の人と地域のコミュニティとの結節点となる場が求められた。参照したのは、過去このまちにあった何げない時間と空間。夏の夕暮れには気持ちの良い海風を求めて多くの人が家から出てきてたわいもない話をしていた。そこにはごく自然にコミュニケーションが成立していた。

この計画では限られた予算でより大きな空間を獲得するために敷地奥側にフリースペースを確保している。このスペースは内外壁を省略することでコストをおさえ、床面積は敷地一杯まで拡張される。この空間があることで、三方を囲まれた敷地でありながら室内への光と風をコントロールし、自然エネルギーの最適な活用を可能としている。外壁のないこの空間は開閉できる経済的な農業用シートにより、取り込む光と風を調節できる。ふわりと揺れるシートが吹き抜ける風を可視化し、空間の境界を曖昧にする。バタフライ形状の屋根、敷地の奥まで見通せるプランは、心地よい風の抜けを実現する最適解を模索した結果である。このまちの隙間に設けられた空間は、都市とは違うノイズ(まちの人の日常や鳥たちの声)、心地よく吹き抜ける風と共にゆるやかにまちとつながっていく。この小さな計画は個と公共、外部と内部、様々なものが混ざり合い、建築単体ではなく、周囲の状況に少しずつ依存しながら成立している。

Photo : YASHIRO PHOTO OFFICE